家族性腫瘍相談外来このページを印刷する - 家族性腫瘍相談外来

岩国医療センターにおける家族性腫瘍への取り組み

家族性腫瘍とは

家系内に「がん」あるいは「腫瘍」の患者さんがたくさん発生している場合があります。
このような家系では、「うちは癌家系だ」などと言われることがしばしばありますが、長寿国の日本では2人に1人が「がん」に罹患するため、その原因は必ずしも遺伝要因とは限りません。

環境要因、あるいは偶然の集積なども可能性として考えられ、これらをまとめて家族性腫瘍と呼んでいます。
この家族集積性を示す「がん」の頻度は、がん全体の約5%とあまり高くありませんが、ほとんど全ての臓器に発生する「がん」で見られます。
特に遺伝を原因とした遺伝性腫瘍は、一般の(遺伝によらない)癌と異なった治療や対策が必要となります。


【癌が多発している家系の1例】

 

当院での家族性腫瘍への取り組みの歴史

当院では、旧国立病院時代から家系内に大腸がんなどを多発する家族性腫瘍の診療に取り組んできました。
1984年には、当時、当院に在籍していた佐々木明医師が「Cancer family syndromeの一家系」、「原発性早期十二指腸癌と盲腸癌の重複した1症例」として論文に報告しております。

佐々木医師が報告した家族性腫瘍は、現在、原因となる遺伝子も同定され、Lynch症候群(別名:遺伝性非ポリポーシス大腸がん)と呼ばれています。
Lynch症候群では治療やサーベイランス(定期検診)の方法が、必ずしも一般の大腸がん患者さんと同じではなく、一般の大腸がんと区別すること(拾い上げ)が大切になります。
しかし、腫瘍を一見しただけでは区別がつかず、ポストゲノム時代といわれる現在でも、基本に忠実にがん家族歴を聴取することが、最も効率的かつ経済的な拾い上げの方法です。

当院では、これに加えて、手術で切除した標本などを用いた免疫組織染色やマイクロサテライト不安定検査を取り入れることで、高い診断率を達成しています。

【リンチ症候群の診断過程に用いられるマイクロサテライト不安定検査】

 

遺伝性腫瘍の特徴と対策の意義

遺伝性腫瘍の特徴として、一般の癌よりも若くして発癌する「若年発症」と、一つの臓器にいくつも癌ができたりする「多発癌」、いくつかの臓器に別々に癌ができたりする「重複癌」などが挙げられます。
がんの「若年発症」とは、30歳代、40歳代の働き盛りの人に発がんするということです。
家族性腫瘍の予防や治療は、働き盛りの人を癌から救うことにつながり、大変重要です。

 

当院における遺伝子検査

発がんの原因となる遺伝子がわかっている遺伝性腫瘍では、確定診断や血縁者に体質が受け継がれているかを調べるのに、遺伝子診断が可能です。

当院では、大腸癌、子宮体癌や胃癌などを好発するLynch症候群と、乳癌や卵巣癌などを好発する遺伝性乳癌・卵巣癌症候群の遺伝子検査を提供しております。

Lynch症候群 無料(厚生労働省研究班菅野班の研究費で全額補助)
遺伝性乳がん・卵巣癌症候群 有料(アンケート調査などにご協力いただける方は当院臨床研究予算からの補助あり)
 

遺伝カウンセリング

なお、遺伝子検査を行うに当たっては、一般の検査と異なる遺伝子検査特有の問題への対策として、カウンセリングが必須とされています。
これは「遺伝カウンセリング」と呼ばれ、疾患の概要や遺伝子検査の感度・精度の情報提供にとどまらず、さまざまな悩みの相談に応じたり、遺伝子検査を受けようとされる方に遺伝子検査の結果によってどのような事が予想されるか、どんな社会的・心理的な問題が生じうるかなどを具体的にイメージできるように支援したりもします。

遺伝カウンセリングの目的は、遺伝子検査を行うことではなく、遺伝子診断を受けるべきか否か、どんな治療を選ぶべきかなどを、相談をされる方が自分自身で選択できるようにサポートすることです。
当院では、臨床遺伝専門医と、認定遺伝カウンセラーとで、患者さんをサポートしております。

 

Lynch症候群(遺伝子性非ポリポーシス大腸癌)について

頻度は全大腸がんの約3%です。
原因となる遺伝子はミスマッチ修復遺伝子であることがわかっており、親から子へ50%の確率で遺伝(常染色体優性遺伝)します。様々な臓器に若年で発がんすることや、多発がんの頻度が高いことなどが特徴です。

Lynch症候群では、大腸癌・子宮体癌・胃癌・小腸癌・胆道癌・泌尿器癌・卵巣癌・脳腫瘍・皮膚癌など、一般の方より高頻度で発生すると言われています。

特に大腸癌、胃癌や子宮癌の発生が多く、検診による早期発見が重要になります。 当院では、Lynch症候群と診断された方に発生する癌を、手遅れにならないよう早期癌のうちに見つけることに力を注いでいます。これまで、大腸癌、胃癌、胆管癌を早期のうちに発見しています。 大腸癌では内視鏡治療により切除できた方もおられます。

また、生活習慣の改善、乳酸菌製剤の内服、徹底的なポリープ摘除などによる発がん予防にも積極的に取り組んでいます。

 

遺伝性乳癌・卵巣癌症候群について

米国の人気女優、アンジェリーナ・ジョリーさん(当時38)が、乳がんを発症していないにもかかわらず乳房を切除する手術を受けたことが公表されました。
これを耳にして、「なぜ、がんになっていないのに手術をするの?」と疑問に思われた方もおられるでしょう。

乳がんの発症には様々な要因が複雑に関係していますが、その要因は環境要因と遺伝要因の2つに大別することができます。
環境要因としては、初潮年齢の早いこと、出産のないこと、閉経後の肥満、アルコール飲料の摂取過剰、喫煙、時間の不規則な勤務、運動不足、などが知られており、大部分の人は主としてこれら環境要因によって発がんします。
一方、乳がんを発症した人の一部(5~10%)は、主に遺伝要因によって発がんすると考えられています。
ジョリーさんのお母さんと叔母さんは、ともに乳がんで亡くなられていますが、これは「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」という遺伝要因が原因で発がんしたと推測されます。そして、ジョリーさんが、「乳がんを発症していないにもかかわらず乳房を切除した」ことと深く関わっています。

この「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」は、どんな病気でしょうか?
「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」は、BRCA1、BRCA2と呼ばれる、発がんを抑制する2つの遺伝子のひとつに障害(病的変異)が原因で、親から子に50%の確率で遺伝します。
BRCA1は、わが国の三木義男先生(現東京医科歯科大学教授)が1994年に発見しました。BRCA遺伝子に変異のある女性では、乳がんを発症するリスクは45~84%、卵巣がんを発症するリスクは11~46%と報告されています。BRCA遺伝子の変異をもっていても、必ずしも乳がんや卵巣がんを発症するわけではありませんが、変異を持たない日本人女性の乳がん発症リスクが7%、卵巣がん発症がリスク1%と比べると、どれぐらいリスクが高いかお判りになると思います。

さらに、若い年齢で乳がんを発症しやすいこと、同じ側の乳房や両側の乳房に複数のがんが発生しやすいこと、男性でも乳がんが多いこと、なども「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」の特徴にあげられます。

なお、トリプルネガティブ乳がんは、乳がんの増殖や分化に関連する3要素(トリプル)と関係なし(ネガティブ)に発症し、最近「遺伝性乳がん卵巣がん症候群」に多いことが分かってきました。(下図)

遺伝性乳がん・卵巣がん症候群の特徴

「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の特徴に当てはまる人は、この疾患を持つ疑いがあります。
そこで、診断をはっきりさせるために遺伝子検査が行われます。通常7ml 程度の少量の血液を採ることで調べることができます。
米国では、すでに100万人以上の人が「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」の遺伝子検査を受けたそうです。
ただし、一般の血液検査と異なり、この遺伝子検査によって得られる結果は、検査を受ける本人のみならず家系全体の問題となる可能性があるなど、遺伝性疾患特有の問題を伴うことから、検査に先立って専門家から十分な情報提供と意思決定に際しての支援を受けること(遺伝カウンセリング)が重要です。

日本では、残念ながら遺伝医療の整備が遅れており、遺伝カウンセリングや遺伝子検査を提供できる施設は限られています。また、保険診療として実施できないため、自費で検査費用(数十万円)を負担しなければなりません。

遺伝子検査によって「遺伝性乳がん・卵巣がん症候群」と診断された場合、乳がんや卵巣がんのリスクを予想することができ、これを元にして、がんの早期発見や発がん予防の治療の選択に結びつけることができます。
乳がんは適切な検診を受けると早期発見できる可能性が高く、日本では、ジョリーさんのように予防的な乳房切除をする人はほとんどいません。
しかし、わが国でも一部の施設では、発がんリスクを低減させるための予防的な乳房切除手術に対応できるよう体制整備を進めており、今後は徐々に予防的な乳房切除を選択する人が増えてくると予想されています。

一方、卵巣がんに対しては、十分な検診を行っていても進行がんで見つかるケースがあることから、米国NCCNガイドラインでは予防的に卵巣と卵管を切除する手術(リスク低減卵巣卵管切除術)を実施するよう推奨しています。
この手術を行うことで、卵巣がんの発症リスクは約80~96%低下し、さらに卵巣摘出後の乳がんリスクも50%低下すると言われています。
米国ではBRCA遺伝子の変異をもつ女性の半数以上が、予防的に卵巣を摘出する手術を受けており、わが国でも、すでに一部の施設で実施されています。
ただし、人工的な閉経状態となるため、術後に更年期症状が出現したり、保険診療として実施できないなど特有の問題があります。それぞれの選択肢の良い点・問題点を十分に検討して、ご本人が納得する対策方法を選択することがポイントです。

 

家族性腫瘍相談外来

  • 充分に時間をかけて対応できるよう完全予約制です。

  • 遺伝相談外来の受診を希望される場合、0827-34-1000 担当 外科:田中屋まで連絡いただき、予約して下さい。オンライン(Zoom)での相談を希望される場合は、予約連絡時にお申出ください。

  • 遺伝カウンセリング費用は特定療養費となり、自費扱いとなります。相談時間30分につき、料金は3,300円(消費税込)です。時間超過の場合は、30分ごとに3,300円(消費税込)の追加料金をいただきます。

  • 一般診療との混合診療はできません。一部、保険診療が使える疾患もありますので、担当者にお尋ねください。

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