ダニ媒介性疾患 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)このページを印刷する - ダニ媒介性疾患 重症熱性血小板減少症候群(SFTS)

岩国医療センターで診療した重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の患者さんの臨床経過

【患 者】:60歳代 女性
【主 訴】:意識障害
【既往歴】:気管支喘息

【現病歴】
2013年4月9日自宅で倒れているところを発見され、救急車で当院に搬送された。38℃の発熱を認めた。呼びかけに対し開眼するが、はっきりとした応答はできず簡単な単語を発言する程度だった。血液検査で白血球900 /μL、血小板8.9万 /μLと低値を認めた。また、AST 124 U/L、ALT 48 U/L、LDH 558 U/Lと高値を認めた。原因不明だったが、発熱からの脱水による意識障害と暫定的に診断し、精査、加療目的で入院となった。

【入院後経過】
入院後、輸液で脱水の改善を試みた。 入院2日目(4月10日)には意識障害軽快し、会話も可能となった。しかし、入院3日目(4月11日)に再度意識障害進行し、呼びかけに対して開眼もしなくなった。

全身観察したところ、右上腕肘関節近くの外側に径3mm程度のダニがかみついているのを発見した。
ピンセットで摘除した後、重症熱性血小板減少症候群(severe fever with thrombocytopenia : SFTS)を疑ったため、ただちに保健所に報告し、保健所経由で国立感染症研究所に患者血液とともに虫体を送付した。
また右側腹部2か所、左側腹部2か所に虫が刺したと思われる傷を認めた。
この時点で厚生労働省が発表していたSFTSの症例定義の内、38℃以上の発熱、血小板減少、白血球減少、AST、ALT、LDHの上昇を認め、SFTSの可能性が高いと考えた。 また、血液検査でフェリチン 9436 ng/mLと高値を認め、血球貪食症候群の病態も疑われた。
フェリチンは入院4日目(4月12日)に19006ng/mLを最高値とし、以降は低下した。入院4日目(4月12日)にD-dimer 3.6μg/mL、FDP 10.5μg/mLと高値を認め、PT-INR 0.77と低下していたため播種性血管内凝固症候群(DIC)の状態と判断し、メシル酸ガベキサートを開始した。
また、今回の病態はマダニが原因である可能性が高いと考えられたが、念のためリケッチアの可能性も考え、ミノサイクリンの投与を開始した。

入院4日目(4月12日)、県の簡易検査で患者血清よりSFTSが陽性との報告を受けた。

入院5日目(4月13日)に血小板数が3.2万 /μLまで低下したが、それ以降は上昇に転じ血小板輸血は施行しなかった。

入院6日目(4月14日)、口唇からの出血、酸素飽和度の低下、尿量の減少あり、NT-proBNP 5938 pg/mL、高感度トロポニンT 0.163 ng/mLと上昇を認めた。CK 723 U/L、CK-MB 32 U/L、血清ミオグロビン158 ng/mLであり、横紋筋融解症も併発していると考えられた。心臓超音波検査では心尖部前壁を中心にsevere hypokinesisを認め、たこつぼ型心筋症の疑いと診断した。
同日、全身状態管理のためにICU入室し、カルペリチド(α型ヒト心房性ナトリウム利尿ペプチド製剤)、塩酸ニカルジピンなどの投与を行い全身管理した。

入院7日目(4月15日)にはNT-proBNP 9888 pg/mLとさらに上昇を認めた。

入院8日目(4月16日)にはNT-proBNP 3482pg/mLと減少に転じた。

徐々に呼吸不全、心不全軽快し、ICU入室5日目(4月18日)にICUから一般病棟に転出した。

その後は意識も清明となり、経口摂取も良好となった。経過良好のため入院24日目(5月2日)退院した。